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文春新書『英語学習の極意』著者サイト

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読書メモ 33

令和2年4月1日から12月31日の実況です。項目ごとに、日付を遡る形で記載しています。
ひとつ前の 平成31年1月1日~令和2年3月31日 の実況はこちら。
ひとつ後の 令和3年1月1日~4月25日 の実況はこちら。



読 書:
<図書館などから借りて読了>

令021230 柿本多映(かきもと・たえ)句集 拾遺放光    (深夜叢書社、令和2年刊)   柿本多映 著、高橋睦郎 編
(昭和3年生、近江は大津のひと。鮮烈な詩性と力を抜いたところが共存する。「遮断機の降りしあたりのすべりひゆ」「ひとまづは棒を跨ぎて去年今年」「どうしても記憶が曲がる蝉の穴」)

令021226 カラマーゾフの兄弟 2     (光文社古典新訳文庫、平成18年刊)   F. M. Dostoyevsky 著、亀山郁夫 訳
(2部第5篇「プロとコントラ」でイワンが語る大審問官、そして第6篇「ロシアの修道僧」のゾシマ長老の青年一代記は、それだけ独立しても諷刺の絶品たり、人間性の実験たりえて、古典文学の秀作だ。イリューシャの父・スネギリョフ大尉の、願いと尊厳のせめぎあいの瞬間も、心に刺さる。まことに一大文学だ。)

令021220 沖縄から貧困がなくならない本当の理由     (光文社新書、令和2年刊)   樋口耕太郎 著
(強烈な同調圧力で他人に遠慮を強いて個性をつぶし自らもまた鬱屈する沖縄社会の沈滞。愛媛もそういうところがあるな。そんなところでは絶対に生きられないが、それがまた日本社会を極端化したカリカチュアであるという皮肉。|著者はホテル経営を革命的に改善するが、それが東京本社に理解されず、そこから壮絶な転落を経験する。本書後半に披瀝される著者の教育論、組織経営論はみごと。ひとに関心をもつのではなく、そのひとが関心をもつことに共に関心をもつことが、そのひとを輝かせることであり、愛することだ。≪わたしたちは、世界をありのままに見ていると思っているが、そうではない。わたしたちの問いが、わたしたちの現実を作り出す。)

令021218 ゼロからはじめる音響学     (講談社、平成26年刊)   青木直史(なおふみ)
(じつにわかりやすい。言語音についても満遍なく目配りしている。著者は北海道大学大学院の情報科学研究科におられ、専門はマルチメディア情報処理という。趣味は音楽と手品とのこと。このかたなら、ぼくの悩みに耳を傾けてくれそうな気がする。強い味方にしたい。)

令021216 平均思考は捨てなさい 出る杭を伸ばす個の科学    (早川書房、平成29年刊)   Todd Rose 著、小坂恵理 訳
(ずばり平均値の集積としての人間がじつはほとんど存在しないという事実は衝撃だった。著者はたいへんな苦労人で、高校までは散々だったが、大学では自分の資質をよく勘案し講義の取り方を工夫して成果をあげる。「バラツキの原理」→あらゆるものの資質は、複数のものから構成されている。「コンテクスト(状況)の原理」→人は特定のコンテクスト(状況)でのみ首尾一貫している。「迂回路の原理」→ゴールまでの最適な経路は個性によって決定される。思うに、特定環境で役に立たないダメ人間は確実に存在し、それもまた個性。ただ、そいつの個性が生きる場もどこかにある可能性がある。自分が個人としてどのような状況で輝けるのか的確に認識することが重要だ。自分の能力にどのようなバラつきがあるかを知り、自分が能力を発揮できるコンテクストを理解することだ。|命令形の訳書名がなんともイヤらしいが、平31に文庫化されるとき『ハーバードの個性学入門』と改題されている。)

令021213 緊急提言 パンデミック 寄稿とインタビュー    (河出書房新社、令和2年刊)   Yuval Noah Harari 著、柴田裕之(やすし)
(ハラリ氏が恐れるのは民主主義国家が大規模な監視社会へ変質し、それがコロナ禍が去ってももとに戻らない可能性が高いということ。誤りを自ずから正すちからの源泉たる民主主義が、独裁に接近するのを危惧している。ひとの移動を外から監視するのみならず、個々人の生体情報(血圧・体温・心拍数)まで国家や企業が把握すれば、個々人の怒りや喜び、恐れまで把握されてしまう。だから国民の監視情報収集は独立した疫学専門機関が権限を持つべきだとする。パンデミックに対する現実的な対策は、遮断ではなく協力と情報共有であると。)

令021211 ミミズと土    (平凡社ライブラリー、平成6年刊)   Charles Darwin 著、渡辺弘之 訳
(かのダーウィンが長年にわたり愛情をもってミミズを観察し、逝去の1年前に出版された。有名な進化論も、このような仔細な観察眼、そして科学的な計算法のなせる業だったのだと納得できる。ミミズが物をなでまわすことで形態を把握し、運び方を判断するするちからを持っていることをダーウィンは観てとる。|ちなみに進化論そのものはダーウィンの独創ではなく、19世紀の生物学において既によく知られた異端の説だった由。)

令021208 ホワット・イフ? 野球のボールを高速で投げたらどうなるか    (早川書房、平成27年刊)   Randall Munroe 著、吉田三知世 訳
(原題 What If?: Serious Scientific Answers to Absurd Hypothetical Questions こういう本が出せるのが、英米文明の強みだ。くそまじめをウィットで冪乗したような。物性の本質を理解し、数量計算を駆使することで、どんなとんでもない世界が現出しうるか。光速に近い野球のボールは前面の空気中の原子に核融合を起こさせる。フィリピン沖で地球の海の水を抜くと、どんな地球になるかという地図の数々。原書は英語教材に最適かもしれない。)

令021207 「音響学」を学ぶ前に読む本     (コロナ社、平成28年刊)   坂本真一・蘆原郁(かおる)共著
(コロナ社という理系専門書出版社、はじめて知った。音響学の本も多数出してくれていて、バリアフリー音の施策改善提案を作成したいぼくにとって、頼もしい味方。本書は初心の者の取っ掛かりに、ありがたい。|周波数が低い音ほど回り込み(回折)しやすいという記述に納得。音源定位の障碍となるはず。周波数の高い音ほど指向性が増して、特定の方向に進む傾向が強くなる。指向性をつけるには、音波の波長に対してスピーカーの口径が大きい必要あり、小型のスピーカーでは点音源になり球面状にあらゆる方向へと伝搬する。「水滴」が「気になる音」なのは、音の振幅の立ち上がりが鋭いから。)

令021206 カラマーゾフの兄弟 1     (光文社古典新訳文庫、平成18年刊)   F. M. Dostoyevsky 著、亀山郁夫 訳
(なんとも濃い人物たちが織り成すハチャメチャの連続。じつに演劇的な構成だ。さまざまな仮定でゆさぶりつつ宗教観を論じる部分もいい。)

令021130 日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る     (講談社ブルーバックス、令和2年刊)   播田(はりた)安弘 著
(長年の謎が基礎的な科学で腑分けされる。造船の技という軸をしっかり持った著者が、凡百の専門バカの誤った判断を正す。|鎌倉時代の武士が一騎打ちに固執してはおらず、集団騎兵による突撃戦法で蒙古高麗兵を大敗させた史実を、神佛の加護を強調したい『八幡愚童訓』が歪めていたというのが真相。中国大返しも、実際に大返しした兵士らが山崎合戦の主戦力になれたわけではなく、秀吉の大きな情報戦・調略合戦の一環だったとは。|戦艦大和の建造の背景にも納得;要は、もっと活用できる可能性があった。ガダルカナル戦に投入して、制空権保持の要にできたろうと。さらに平間洋一氏説によれば、1. 開戦前の日米交渉時に日本側の抑止力として提示できた(パナマ運河を通らねばならぬ米艦は幅32.3米以下なので主砲は41cmだが大和は幅38米で主砲は48cm;2. 真珠湾攻撃をせず、当初の対米戦略どおり艦隊決戦を指向する手があった;3. インド洋に主力艦隊を投入し、日本へ中東の石油を持ってくるといった策あり。|1923年に当時画期的な軽巡洋艦や特型駆逐艦を設計し「造船の神様」になってしまった平賀譲が、設計に 2つの致命的欠陥あり、多数の艦船と人命を失う結果をまねいた:内部構造に縦隔壁を入れたため、魚雷攻撃で片側のみ浸水し横転沈没しやすい;ボイラー室とタービン室の配置を、交互にせず、ボイラー室はボイラー室、タービン室はタービン室でまとめたため、製造が容易な反面、ボイラーないしタービンを一気に破壊されて動力系が停止するリスクを高めた。無念なり。)

令021125 観察力を磨く 名画読解     (早川書房、平成28年刊)   Amy E. Herman (エイミー・E・ハーマン)著、岡本由香子 訳
(原著名 Visual Intelligence: Sharpen Your Perception, Change Your Life ものを見るときの盲点や偏り、われ知らず交える思い込み(バイアス)、それらが客観性のない判断を生む。モネやマチスやマグリットの絵も素材にして、いかにわれわれが多くのことを見過ごしているか如実に知らされる。本書を読んだあと美術館に行ってみて、作品の観方が変わったのを実感できた。|≪他人の視点に立つことで、問題解決のヒントが見つかることもある。たとえば、今抱えている問題について、物語の登場人物や有名人になりきって分析するのだ。≫(168頁)|「お話があるんですけど」というより「ちょっと教えていただけますか」と言ったほうが、相手は心を開く。|1.全体を捉えつつも、細部をおろそかにしない。2.複雑さを恐れない。結論を急がない。3.疑問を持つことを忘れない。||アート関連の本かと思ったら、うれしいサプライズだった。生き方そのものへの指南書だ。)

令021120 エネルギー400年史 薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで     (草思社、令和元年刊)   Richard Rhodes 著、秋山 勝 訳
(人間模様で描いたエネルギー史。経済のために深刻な汚染も当然のこととして耐え忍んできた時代の人々の考え方が現代といかに異なっていたかに驚く。そして、今日当然のこととして使っている諸々のものが、一歩一歩たゆみない発見と工夫で生み出されたものであることにも。|ワットの蒸気機関があくまで蒸気の復水で発生する真空を使うものであり、高圧を推進力にした蒸気機関の先駆者は、貧窮に死した Trevithick 氏であったとは! ボルタがせっかく電池を発明しても、電気の有用性がよく分からなかったというのも驚き。原油の利用ができるようになったのはシリマンが分別蒸留 = cracking = を始めたからだった。|原子力で、冷却材に金属ナトリウムでなく軽水を選び、燃料として金属ウランではなく酸化ウランのペレットを選んだのがリッコーヴァー。なんと、今日の原子力発電の絵姿はこうしてできたのだ。原子力開発の初期には原子炉の安全性に格別の注意は払われず、それが1952年のカナダのチョークリバーの事故で一変し、やがて真逆の極論である「直線閾値なし(LNT)」モデルが世を覆う。筆者は原子力の安全性と地球環境への貢献性(大気汚染ゼロ、CO2極小)に極めて理解があり、2018年時点の執筆にしてなお原子力を未来のエネルギー源の主力と見、石炭・石油は段階消滅する存在と見なしている。)

令021014 経済で読み解く日本史1 室町・戦国時代    (飛鳥新社、令和元年刊)   上念 司 著
(これにてシリーズ6冊を読み終えた。名著なり。|応仁の乱のディテールや戦国武将あのひとこのひとに目を奪われることなく、貨幣のありかたとありかにポイントを絞ったのがよい。比叡山延暦寺、臨済宗の五山、本願寺の一向衆、法華衆、これらが単に宗教団体である以上に、強大な利権集団として世の中を左右した時代だ。1536年の法華一揆鎮圧で、京都は応仁の乱のとき以上に広範囲が焼け野原になったのだという。室町幕府が鎌倉幕府に比べて弱体に見えたのを「京都に本拠を置いて公家化したからだ」という説明で済ましていた学校日本史の何と安易なことか。近江の守護・六角氏や、三好長慶、松永久秀など、学校日本史に登場しない重要な脇役が歴史には多々いるものだな。)

令021111 新 文系ウソ社会の研究 悪とペテンの仕組を解明する     (展転社、平成31年刊)   長浜浩明 著
(著者の集大成。朝日どもの数ある害毒を網羅した黒史。いちいち納得するが(オトポール事件の関連で、過大な救出者数を踏襲したところだけは、早坂隆氏の見解に従うべきだが)、悪とペテンへの怨念の繰り返しが やや疲れる。事態がそれほどに病膏肓ということではあるが。)

令021108 フランケンシュタイン     (光文社古典新訳文庫、平成22年刊)   Mary Shelley 著、小林章夫 訳
(怪物の独白は説得力があり自己投影できた。20歳にして初稿を脱稿した著者の精神世界は深い。とはいえ、怪物を世にもたらしたヴィクターの能天気・身勝手・気まぐれには、読んでいて嫌気がさしてくる。怪物が動き出すやこれをほっぽり出し、部屋に戻って怪物がいないことにホッとするとは、なんという体たらく。英国へ向けてのちんたら道中も、あきれるほかない。)

令021103 ハーバードの日本人論    (中公新書ラクレ、令和元年刊)   佐藤智恵 編著
(10人の碩学へのインタビュー。ハーバード大の教養課程のレベルの高い多様さに脱帽。とかくインタビュー構成の本は散漫になりがちだが、本書は1章1章の密度も濃い。|現生人類はみな、たかだか6万年前にアフリカを出た人類の子孫であり、それ以前の旧人類は部分的に DNA を残しつつ滅びた。縄文人と弥生人の交配開始が1600年前と推定されるというのも興味深い。ちょうど大和朝廷成立の頃ではないか!|ソニーが苦しくなったのは、ブラウン管テレビから液晶テレビへの転換期という指摘に、なるほど。そして富士フイルムが生き残れ(てコダックが滅び)たのは液晶ディスプレイの偏光板の保護膜として使われる偏光フィルムを作っていたから。|中村文則、青山七恵、小山田浩子の小説が海外で評価が高いという。こんど読んでみよう。)

令021031 シリーズ日本人の手習い 妖怪草紙 くずし字入門     (柏書房、平成13年刊)   Adam Kabat 著
(見越し入道の妻が姑獲鳥(うぶめ)で、息子が一つ目小僧。妖怪社会のおもしろさに引き込まれ、変体仮名解読入門が果たせた。役立つ実感がわく本だ。)

令021031 82年生まれ、キム・ジヨン     (筑摩書房、平成30年刊)   Cho Nam-joo 著、斎藤真理子 訳
(韓国社会と韓国人の民族性のイヤなところがぐいぐい詰め込まれていて、痛々しい。この本のどこが「癒し」につながるのだろう。ひたすら心痛く、ぼくには苦手のジャンルだ。)

令021029 トレードオフ 上質をとるか、手軽をとるか    (プレジデント社、平成22年刊)   Kevin Maney 著、有賀裕子 訳
(原書副題は Why Some Things Catch On, and Others Don't だが、和訳本副題のほうが本書の本質を伝えている。折しも大塚家具の大塚久美子社長が引責辞任することとなったが、大塚家具の失敗もけっきょく「上質」と「手軽」のあいだでどっちつかずになって、業容をまかなうだけの顧客数を得られなくなったのが原因だ。2009年刊の原著だが、あまり古びてないのは経営の本質をついているからだろう。1990年代にゼネラル・マジックというブラウザ先駆者が一世を風靡したものの、あまりに時代を先取りしすぎていて崩壊。そんな企業もあったんだね。ティファニーが一時期、マスマーケットに媚びて売上高を上げたものの企業価値を下げてしまい方向を戻したという実例がわかりやすい。その一方、COACH はマスマーケットに埋没してしまった。セグウェイが不毛地帯から抜け出せないことも予見している。紙の新聞は若い世代をあきらめ、50代以上の読者に特化せよと。|上質さと手軽さのどちらでライバルを打ち負かせるか。小品やサービスを小さく生むと小回りがきくため、テクノロジーの進歩や競合他社の動きに対応しやすい。上質とは愛されることであり、手軽とは必要とされることである。愛されるか必要とされるか、このどちらかの基準を満たさないかぎり、ビジネスは繁栄しない。輝かしい成功を収める人というのはたいてい、何かの分野をきわめている。)

令021025 The Intelligence Trap なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか    (日本経済新聞出版、令和2年刊)   David Robson 著、土方奈美 訳
(脳科学の衣をまとった経営論の書。≪インテリジェンス・トラップは、自らの予想を超えたところに何があるのか、思いをめぐらせる能力の欠如から生まれることが多い。≫ 世界を別の視点から眺めて、自分が正しいと思った判断がじつは誤りだったという世界を想定してみることができるかできないかだ。高い専門性を養って効率よく直感的判断を下すとき、そこに直感ゆえのバイアスが混じることに気づかない。そして、自らの立場と矛盾する証拠を否定するために優れた知性を浪費してしまう。|学習時間の分散化は集中化にまさる。その理由は、学習時間をコマ切れにすると「いったん忘れて学習しなおす」ことが頻繁に起こり、結果的に長期記憶が促される。問題集を解く意味は、答えを思い出そうとする努力の時間を自分に与えることにより記憶を鍛えること。)

令021022 ポーランド語の風景 日本語の窓を通して見えるもの    (現代書館、平成17年刊)   渡辺克義 著
(渡辺克義さんの生き方は、ぼくにとって「ありえた別の人生」だ。用例中心のすてきな和波辞典の見本として「ら」の項を執筆されていて圧巻。和英辞典を超えた夢のような十数ページ。その形ではとても無理だろうが、『日本語ポーランド語動詞辞典』なら可能なはずだ。ぼくも参画してみたい企画、渡辺教授に提案してみよう。)

令021020 歌集 サリンジャーは死んでしまった    (角川書店、平成23年刊)   小島なお 著
(『乱反射』のみずみずしい感性が失われ、わざとらしい作り込みの作品ばかりになってしまい、残念。のちまで残るのは失恋歌の章のみ、か。)

令021019 脳には妙なクセがある    (扶桑社、平成24年刊)   池谷(いけがや)裕二 著
(ほんらい身体の動きと直結した脳。人間の知的活動はしばしば旧来の脳の働きを使い回している。無意識に形成された生理的な好悪癖が、人格や性格の圧倒的な部分を占める。意識的学習より無意識の学習のほうが、人格や成長に与える影響がはるかに大きい。脳の自動判定装置が正しい反射をしてくれるか否かは、本人が過去にどれほどよい経験をしてきているかに依存する。よい経験をすることが、よく生きることであり、それが良いクセを生む。頭がよいとは、反射が的確であること。|アイデアを出すには、課題に直面したあと休止期間をおくと、解決策をふと思いつきやすい。睡眠直前の習得は記憶に効果的。|恐怖と嫌悪が、表情としては対照的とはおもしろい。恐怖は外部へのアンテナを敏感にさせるが、嫌悪は感覚入力を閉ざす。|学習には、入力を繰り返すより出力を繰り返すほうが定着率が上がる。参考書より問題集だ!ってこと。脳が記憶する情報は、頻繁に入力されたかではなく、どれほどその情報が必要とされる状況に至ったか、つまりその情報をどれほど使ったかを基準に選択される。|幸福感って、20代で一気に落ち込み50代前半まで低迷し、そのあと上向きに恢復するものだと。|脳による分類や認識は、それに対応する単語の有無が決め手。自分が持っている語彙が、意志や思考や行動に独特のパターンをもたらし、社会観や生活観そのものを変化させる。|メタファーを解釈することは、言語野のみならず、単語と文脈を統合し裏の意味を推定するという脳の高次機能が関わる。|催眠術は、擬似認知症をつくりだす。脳が老けるとは、夢を持てなくなること。)

令021014 歌集 乱反射    (角川書店、平成19年刊)   小島なお 著
(すなおで新鮮な感性がことばからあふれる。技巧にたよらず一直線に詠う。若さのすてきな結晶。)

令021014 あらゆる不調をなくす毒消し食    (アチーブメント出版、令和元年刊)   小垣佑一郎 著
(ひとの個人差は広く、基準値が万能ではない。健康になりたければ、からだに必要な栄養素から優先して摂取する。バランスのよい食事ではなく、偏った食事をすべきと。つまるところ、からだが爽快かどうかだ。蛋白質、ヘム鉄、ビタミンB群がキモだという。胃酸の分泌も、抗ストレス物質の GABA も蛋白質による。プロポーションがよくなるのは、蛋白質の増加による。コレステロールも、悪玉視は誤りと説く。脳はコレステロールのかたまりであり、神経はコレステロールに包まれている。コレステロールが不足すると、神経伝達に支障がおきる。)

令021012 お伽草子    (未知谷(みちたに)、平成19年刊)   太宰 治 著、スズキコージ 絵
(原著は昭和20年10月刊。名著ぶりに驚く。朗読劇をやりたくなる。「瘤取り」は鬼を風流人に描くのが新味。「浦島さん」は、竜宮城を地上の華美の引き写しにせず、海底の物的世界なりの別のリアルに紡ぎあげたのが手柄。結末に浦島翁の幸福を見てとったのもみごと。「カチカチ山」は愛すべき中年狸と冷酷美女なりの兎という仕立て。太宰の女遍歴を反映か。「舌切雀」も雀ワールドを人形劇のような別世界に描き上げる。お爺さんが、じつは40前のダメ男だったのが、雀のお照さんへの愛が運命を変える。ほのぼのした終わり方もみごと。ストーリーでありながら、横合いから著者太宰が太宰として顔を出す仕立ては、のちの司馬遼太郎のさきがけだし、軽妙な文体はのちの南伸坊や橋本治だ。)

令021010 経済で読み解く日本史5 大正・昭和時代    (飛鳥新社、令和元年刊)   上念 司 著
(社会が狂い外交が乱れるのは、つまるところ貨幣の乱れ、つまり金融政策と財政政策の失策によるところがいかに大か。歴史を大きくつまずかせた愚者らは、あまりにしばしば表向きのピエロ堕天使の後ろに隠れている。金本位制という宗教、そしてデフレを招く政策に、いかに多くの政策決定者がとりつかれ、社会を導き誤ったことか。ヒトラーを招いたのも、つまるところ前任のブリューニング首相による失政である。|乗数理論の祖としてのみ知っていたケインズだが、じつは第一次大戦後のドイツへの過大な賠償請求を阻止すべく獅子奮迅するも果たせなかった過去があったとは。|ファシズムとは国家よりも党が上に立つ体制、すなわちいまの中国や朝鮮国もファシズム、という指摘や良し。|第二次大戦前、もともと海軍が持っていた作戦プランは、フィリピンに駐留する米陸軍を殲滅し、大量に獲得した捕虜を奪還するためにやってくる米海軍と洋上で刺し違えるというもの。なるほどこれなら合理性がある。ハワイへの中途半端な奇襲に固執した山本五十六の罪は限りなく重い。井上準之助、馬場鍈一、都留重人……愚者は海の真砂。)

令021007 経済で読み解く日本史6 平成時代    (飛鳥新社、令和2年刊)   上念 司 著
(米国発の為替の嵐のトラウマにさいなまれる国民が地価高騰に怨嗟の声を上げ、それに応える日銀おぼっちゃまの緊縮策で失われた歳月。つくづく貨幣政策が世の中を決める。罪深き高慢なる愚者に歴史の鉄槌を下しつづける本書、またみごと。2003年刊の野口旭『経済論戦』、そして岩田規久男『デフレの経済学』が良書と。|「バブル期に歪んでいたのは株と不動産価格だけ」という本質を無視して治療薬を誤った原理主義的インフレファイター三重野 康と、それに「平成の鬼平」と名づけてみせた清算主義者・佐高信。1993年が崩壊のターニングポイント、これが新卒採用数に出る。なおも日銀二流官僚は「日銀の独立」をはき違え、円高原理主義者・速水優が政府方針に叛旗。この愚を福井俊彦が継ぎ、さらに白川方明が引き継ぎ金融緩和を拒否して円不足から超円高へ。さらに鳩山内閣の財務相・藤井裕久。|財務省が公共事業を絞りまくるロジックに、費用便益分析の割引率(投資リターン)の条件を2004年以来 4%に設定しつづけたことがあるという。三菱商事の7.75%と同じだな。|関税の掛け合いをした2国の勝敗を決するのは物価上昇率なりと。なるほど、それが国の実力差。)

令021004 息吹    (早川書房、令和元年刊)   Ted Chiang 著、大森 望 訳
(原題 Exhalation. 文明のありかた、人間の本性に切り込む。プロットに引きずられるのではなく、プロットを光源として未知の観念を照らし出す。表題作は、噴出しつづける高圧気体が全てのいのちの源となる機械生物体の宇宙における知性体の独白であり、作品全体が一個の現代アートだ。|IT革命でネット世界の感覚を万人が共有したことによりはじめて成立した作品もある。人間が視覚・聴覚でとらえたものを脳内チップにより刻一刻と記録しそれをネットにアップして検索をかけさせることもできる世界では、自分の行為を他者視点の映像・音声で検索再生することすらできる。それによって生まれる想定外の世界は、善か悪か。いっぽう、タイムトラベルものの変奏として、自分にありえたさまざまの生涯が並行展開する世界にうごめく人類をリアルに描き出した作もみごと。)

令021004 日本史の新常識    (文春新書、平成30年刊)   文藝春秋 編
(諸賢の論考集。|米国は東西両岸同時防衛の観点から、大西洋のシーレーン上のプエルトリコに手をつけ、フィリピン攻略とともにハワイを分捕り、フィリピンに日本が来ぬよう日本の関心を北方に向けるべく日露戦争講和に協力し、韓国とフィリピンの領有を相互に承認しあう。日本の南方展開が遅れた理由も、フィリピンをおびやかすベトナム進駐に米国が敏感に反応したのも、このストーリーで理解できる。|西郷隆盛は神経過敏で人の好き嫌いの激しい仁で、征韓論を唱えたころは日に50回も下痢をする体たらく。つくづく嫌な奴なり。おのれ清ければ必ず草莽はこれに応ぜんと考えるのが革命思想の典型で日本の大東亜戦争もそれを引きずっていたという分析もみごと。)

令021002 終わりの感覚    (新潮社、平成24年刊)   Julian Barnes 著、土屋政雄 訳
(原題 The Sense of an Ending. 英国のストーリー テリングのすごみを再認識。「悔恨」をここまで描ききるとは。)

令020926 空白の日本史    (扶桑社新書、令和2年刊)   本郷和人 著
(本郷さんは、おもねらず、話がふつうに通じる人だな。こういう人が専門家として東大の史料編纂所で教授の職にあるとは、たのもしい。日本史そのもの、あるいは日本史研究の空白を論じつつ、じつは「歴史というものに、ひとはどう向き合うべきなのか」ということを論じている。|日本の皇室は奈良時代以来、神道でなく佛教でしょ、という指摘にまずグラッ。三種の神器が3セットある、という歴史のいい加減さにグラッ。宋銭はまずは船底の重しにするために日本に運ばれたって!)

令020918 クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養    (ダイヤモンド社、平成30年刊)   松田亜有子 著
(クラシック音楽への著者の愛がしみわたっている。大音楽家たちの生涯を簡潔に紹介してくれているのもうれしい。今後のガイドブックにするつもり。)

令020915 経済で読み解く日本史2 安土桃山時代    (飛鳥新社、令和元年刊)   上念 司 著
(世界史を変えた石見銀山は1526年に博多商人の神谷寿禎(かみや・じゅてい)が発見。彼は1533年に朝鮮から技術者を連れてきて灰吹き法という精錬技術の導入も行う。すごい事業家なのに、歴史で全然習わないぞ。|信長の革命以前、寺社勢力は全国の物流拠点を牛耳り、刀鍛冶を囲い込み、要塞のような寺院を建築し、文字通り有力軍閥としてのさばっていた…|それにしても憎きはイエズス会。キリシタン領主と結んで寺社を破壊し日本を侵略しつくすところだった。やはりカトリックは棄教しようと心に決めた。|上念さんの言うとおり、秀吉はターゲットを間違えた。ランドパワーよろしく陸軍力で朝鮮から明へと領土を広げることに汲々としてしまったわけだが、正しくは海軍力でマニラを抑え南洋貿易で栄えるべきだった。18世紀半ばまで十分そのチャンスはあったと。|あらためて、いまの中国のランドパワーぶりも再認識できた。領土・領海に拘泥するのも、ランドパワーらしく自給自足志向だからだ。|それにしても、李舜臣がじつは小賢しく講和後の日本軍をだまし討ちし、けっきょく阿波水軍を起用した島津義弘に討ち取られたのだとは。日本は朝鮮戦役でゲリラ攻撃にさんざん悩まされるが、正規軍の正面きった戦闘では負け知らずだったのだと。もっとメタクソだったのかと思っていた。)

令020913 ざんねんな兵器図鑑    (KADOKAWA 令和元年刊)   古田和輝・伊藤明弘・佐野之彦 著
(突っ込みどころを満載にした発想図鑑。頭のもみほぐしにピッタリです。)

令020912 世界史は99%、経済でつくられる    (育鵬社、平成28年刊)   宇山卓栄(たくえい)
(これまでの世界史はあまりに政局史であり軍事史でありすぎて、袋小路に入って本質が見えていなかったなぁ。およそ戦争という戦争は雇用と流通の破綻に原因があり、戦局を決めるのはつまるところカネのちからだ。国力の盛衰も通貨量をいかに調整し流通を促すかにかかっている。漢の武帝の死後の経済論議が、桓寛・著『塩鉄論』にまとめられているという。試しに読んでみたい。平和をカネで買った宋の命運が尽きたのも、財政破綻でモンゴルにカネが払えなくなったという単純な理由だし、清朝が1911年という時点で崩壊したのは鉄道国有化を強行して華南の民族資本の反発を食らったから。『クルアーン』には、税の支払いと引き換えに他宗教への寛容を認める実利的な規定があるという。そういうまともな部分を生かせないでいるのが今のイスラムだ。高句麗を建てたのがツングース系満洲人で、そこから渤海、清朝へとつながる。高句麗を中国史に入れるのもあながち間違いではないわけだ。満洲事変後、日本が華北分離工作を進めていたころ、英国は日本に対して中国の幣制改革で協調するよう呼びかけ、協調するなら英国も中国も満洲国を承認するという条件を日本に提示していたという。これを断った欲張りのツケは甚大だった。日本は1941年から国民党に打撃を与えるべく元のニセ札を大量製造して中国各地にばらまき、ハイパーインフレに陥れる。初耳、嘆くべし。20世紀後半、欧州各国による植民地経営が割りが合わなくなる一因に、武器価格下落で民族主義者が重武装しはじめ、これに対抗するための軍事支出の増大あり。)

令020910 なぜ脳はアートがわかるのか 現代美術史から学ぶ脳科学入門    (青土社、令和元年刊)   Eric R. Kandel 著、高橋 洋 訳
(外界の具象とかけ離れた抽象画になぜ人間の脳はビビッと来るのか、という問い。Abstractism より含意の広い Reductionism という用語を著者は使う。脳は、具象画を処理するボトムアッププロセスと、抽象画を処理するトップダウンプロセスの2つを持っている。|そうだとすると興味があるのは、トップダウンプロセスの開拓が進んだ人と未開拓の人では脳の働きも異なり、美術への感性も異なるはずだ。トップダウンプロセスがどのように開拓されるものなのか分かれば、美術教育、さらに美学の領域へと架け橋はひろがる。)

令020809 経済で読み解く日本史4 明治時代    (飛鳥新社、令和元年刊)   上念 司 著
(廃藩置県が藩の領主にとっておいしい御破算パッケージだったとは、なるほどだ。国会開設以前、西南戦争直後の1878年公布の法で公選議員からなる府県会が設置された。着実に練習しながら国政の民主化が進められたわけだ。金本位制を支えたのが南アフリカの金鉱の発見で、これがボーア戦争を引き起こし、アジアに手が回らなくなった英国の日本との同盟につながる。日露戦争時の度重なる外債発行にもドラマあり。結局カネの切れ目が国運の切れ目。それにしても、マスコミの蒙昧と小村寿太郎の小心が桂・ハリマン協定による南満洲鉄道への米資参加を蹴散らし大東亜戦争の遠因となったこと、かえすがえす惜しまれる。)

令020906 ものがたり西洋音楽史     (岩波ジュニア新書、平成31年刊)   近藤 譲 著
(ぼくにピッタリの入門書。聴く作曲家の幅を広げるのに役立ちそうなので、手元用に1冊購入した。)

令020904 日本人の勝算 人口減少×高齢化×資本主義    (東洋経済新報社、平成31年刊)   David Atkinson 著
(日本政府の経済運営が選ぶべき針路を、確たる根拠とともに明確に示す。期待を大幅に上回る良書。「最低賃金を全国一律に上げるべし」が著者の主張であることは知っていたが、その効果がこれほどもあり、政策的に困難なものでもなく、設定すべき上げ幅も統計学的に算出可能だったとは! かくも明確な指針であれば、従わぬことが犯罪だ。最低賃金の主管官庁を厚労省から経産省へ移すだけでも効果は絶大というのもうなづける。確実に人口が激減する国が、このまま知恵のない有象無象の政策を続けたら、日本は確実に三流国だ。日本はすでにして貧乏くさい低付加価値・低所得経済であり、輸出にも不熱心であり、研究開発大国でもないのに、自己イメージが現実から乖離していることが死をまねく。)

令020903 たけしの面白科学者図鑑 人間が一番の神秘だ     (新潮文庫、平成29年刊、原著 平成26年刊)   ビートたけし 対談
(11人の専門家との「新潮45」誌上対談。人間とは何か、多面的にあぶり出す仕掛け。ビートたけしさん自身、工学部でレーザー光線のゼミ歴があったとは!|関野吉晴さん曰く、チンパンジーは屍肉を食べても群れには持ち帰らないが、人間は群れに持ち帰って分け与えることで逆境の保険にする。平等であることの強みで生き残ったのだろうと。|池谷裕二さん曰く、笑いとは予想との違いを是認する反応のために癲癇の脳回路を流用したのだろうと。|松尾豊さん曰く、AI のデータを生かすミクロロボットに日本の商機があると。AI 自身が暴走する可能性は低く、むしろ人間による悪用をどう抑え込むかがカギ。)

令020831 「歴史×経済」で読み解く世界と日本の未来     (PHPエディターズ・グループ、平成29年刊)   井沢元彦・中原圭介 著
(「経済成長にはインフレが良い」という通説に対して、「デフレで結構。要は多数の国民の購買力を上げることが肝心。円安で輸出企業が潤っても給与引上げによるトリクルダウンなど幻なのだから、適度の円高で輸入品が安くなったほうが良い」と。ちょっくら正論に思えたが、David Atkinsonさんの『日本人の勝算』と引き比べるとこの2人の対談は底が浅い。)

令020830 自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学    (講談社現代新書、令和元年刊)   森口佑介 著
(脳のアクセル=報酬系回路=とブレーキの話。ストレスがあると、ブレーキがききにくくなるという。年齢に応じてアクセルとブレーキの力関係が変わり、10代後半はアクセルにブレーキが追いつかなくなる時期なんだって。なるほどね。)

令020829 読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術    (ダイヤモンド社、令和元年刊)   田中泰延(ひろのぶ)
(構成も文章も遊びまくっている本だが、情報を盛り込むサービス精神もたんと発揮している。≪つまらない人間とはなにか。それは自分の内面を語る人である。少しでもおもしろく感じる人というのは、その人の外部にあることを語っている。≫(142頁) ≪物書きは「調べる」が9割9分5厘6毛≫(144頁) やられた!)

令020828 耳が喜ぶスペイン語 リスニング体得トレーニング    (三修社、平成31年刊)   Julio Villoria Aparicio 著
(多読教材として好適。多言語でも出してほしい。いっぽう「口が覚えるスペイン語」という単文主体の姉妹篇もある由。)

令020826 ネイティブに伝わる「シンプル英作文」    (ちくまプリマー新書、平成25年刊)   David Thayne・森田 修 著
(デイビッド・セイン本のエッセンスをまとめた本。取っつきやすいので、基礎固めの教材として銀座gym の受講生にもすすめている。)

令020822 美術館って、おもしろい!    (河出書房新社、令和2年刊)   Ondrej Chrobak ほか著、阿部健一ほか訳
(原題「ギャラリーはどのようにしてできあがるか Jak se dela galerie」。美術館という公的空間が、じつは近世になってようやく出現したものであること、あらためて気づかされた。1911年のモナ・リザ盗難は、有名な絵画を祖国に帰したかったイタリア人塗装業者で、盗難の2年後にウフィーツィの館長に売却を打診して、逮捕!)

令020815 経済で読み解く日本史3 江戸時代    (飛鳥新社、令和元年刊)   上念 司 著
(このシリーズを読むのは1冊目。旧弊な思考枠におもねらず、過去の事象を現在の世界に引き直して語ってくれるので分かりやすい。江戸時代の変遷を生産力アップとそれに追いつかぬ貨幣量のせめぎ合いという基調音でとらえる。荻原重秀の貨幣改鋳の正しさをその後の為政者が正しく理解していれば、そして人材登用がもっと柔軟であったなら、徳川の治世はそのまま近代国家へと転換できていたであろうという話だ。)

令020813 美意識の値段    (集英社新書、令和2年刊)   山口 桂 著
(日本美術の個々の名品と自らの出会いをユーモアをこめたストーリーで語る。全ての美術品は作られたときは現代美術である、という軸がしっかり貫かれているのがよい。そこから、一級の美術品は全て永遠の現代美術である、につながる。|「~では無い」をはじめ「~に為る」だの「~の様な事」「と云う」など、テラった漢字使いが嫌味。さいしょ気障りで、ほっぽり出したくなった。)

令020812 ルトワックの日本改造論     (飛鳥新社、令和元年刊)   Edward N. Luttwak 著、奥山真司 訳
(知見と冷徹を兼ね備えた著者へのインタビュー集。国際政治論はこのひとの大脳から枝を広げよ。|非核化された統一朝鮮は米軍が駐留せぬかぎり中国に取り込まれる公算高しと。中東やアフリカの些事に目を奪われていた米軍ロビーは、今や中国に集中し始めている。米国人は蹴られても悪口を言われても我慢できるところはするが、嘘をつかれたり約束を破られることは許せない。日本に空母は不要で、代わりに必要なのは中古の超大型ハイテクジャンボ機を改造して空対艦ミサイルや空対地ミサイルを積みミサイル航空機にしてしまうこと。韓国は、自由で開かれたインド太平洋戦略の反中同盟に参加せず中国側につくことは確実と。核抑止力は、分別のある者に対してだけ働くが、北朝鮮はそういう相手ではないと。)

令020810 石川忠久・中西進の漢詩歓談    (大修館書店、平成16年刊)
(李白の「月下独酌」の幽玄美。杜甫の「贈衛八処士」のほほえましさ。どうもぼくは漢詩でもストーリー性のある長いものが好きらしい。中西進先生は万葉集のご研究を軸にした教養の広がりがパワフルで、天下の石川忠久先生も翻弄される。)

令020809 自分の中に毒を持て あなたは “常識人間” を捨てられるか    (青春出版社、平成5年刊)   岡本太郎 著
(著者82歳、逝去の3年前の壮大な語録。生が真に輝くには、きれいごとは敵だ。読みながら自分を重ね合わせられる瞬間はしあわせだ。ジョルジュ・バタイユやマックス・エルンストをはじめ文化人とがっぷり付き合い、恋に燃えた青春も語ってくれる。≪駄目になって結構だと思ってやればいい。最悪の敵は自分自身なんだから。自分をぶっ壊してやるというつおりで。そのくらいの激しさで挑まなければ、今までの自分を破壊して新しい自分になることはできない。≫ ≪全身全霊が宇宙に向かって無条件にパーッとひらくこと。それが「爆発」だ。人生は本来、瞬間瞬間に、無償、無目的に爆発しつづけるべきだ。いのちのほんとうの在り方だ。≫ ≪宗教はかつての力を失い、絶対感を喪失してしまった。それを今日生き返らせうるのは「藝術」であろう。藝術は呪術である、というのがぼくの前からの信念だ。その呪力は無償のコミュニケーションとして放射される。無償でなければ呪力を持たないのだ。≫)

令020804 東アジアの論理 日中韓の歴史から読み解く    (中公新書、令和2年刊)   岡本隆司 著
(がっかり本の極み。「週刊東洋経済」への書き散らしとはいえ、新聞記事レベルの雑談しかない。冷笑的なソツのなさがいかにも福田康夫だ。台湾を黙殺して中韓になびき、日本を斜に見る。日経書評の評価が高くて楽しみにしていたが、以後この著者は無視だ。)

令020803 百年目 ミレニアム記念特別文庫    (新潮文庫、平成12年刊)  
(黒柳徹子さん「アイボ・グレーちゃんと暮して」、蓮實重彦の東大総長の辞、さくらももこ「そば屋対決」など。三島由紀夫の母・平岡倭文重(しずえ)「暴流(ぼる)のごとく 三島由紀夫七回忌に」は、祖母と母それぞれの公威への溺愛ぶりを物語る。)

令020802 日本の誕生 皇室と日本人のルーツ    (ワック、令和元年刊)   長浜浩明 著
(前著『古代日本「謎」の時代を解き明かす』『韓国人は何処から来たか』が何れもみごとで、倉庫で別置きしてあるが、本著はその延長。名著なり。記紀と魏志倭人伝に科学の光を当てながら誠実に向き合うスタンスは実に真っ当で信頼できる。神武天皇以来の在位年を明示しつつ、北九州の邪馬台国とそれを包囲する天孫族・大和朝廷による併呑を年表化する。岡田英弘氏の『倭国』にはイヤらしさを感じて読み進めずにいたが、本著による批判を目にして廃棄した。かの渡部昇一氏も田中英道氏さえバタバタと討ち死にだ。長浜浩明氏を読めば、古代日本史はひとまず十分だ。)

令020801 ノースライト    (新潮社、平成31年刊)   横山秀夫 著
(『クライマーズ・ハイ』の著者の新作。地味だが、心のヒダを淡々と描く。建築士の自己との闘いのストーリーは The Fountainhead に通ずるか。)

令020728 戦争調査会 幻の政府文書を読み解く   (講談社現代新書、平成29年刊)   井上寿一 著
(日米戦争への直接的な引き金は、ドイツの仏制圧の間隙に北ベトナムさらには南ベトナムを占領してフィリピンとシンガポールを空襲可能域に入れてしまったことにある。日本側は、陸軍をソ連へと北上させずに南下させようという思惑あり。幼児化した陸軍をベトナム菓子で釣ろうくらいの不真面目だ。日米交渉において東条陸相が中国からの撤兵を断固拒否したのが決定打だ。誤れる十五年戦争史観によって従来、ベトナム占領の歴史的インパクトが軽視されていたのではないか。|それにしても、北一輝のシベリア・豪州奪取論は幼稚の極みだし、死して歴史の善玉となった犬養毅も国家の大事より党争を優先した二流人士だ。和平交渉の相手である国民党を相手にせずと唐突に何度も言い放つ近衛文麿は狂人だし、身の程知らずに首相の座まで夢見た松岡洋右は現今の今井尚哉だ。二流三流の人々と組織が国を誤らせた。|≪戦争は単一要因ではなく、複数の要因の複雑な相互連関の結果として起きる。戦争の直接的な体験者がいなくなって何年、何十年を経ても、戦争の時代の全体像を考えつづける歴史的な想像力を鍛えなければならない。≫ ≪いま問われるべきは歴史研究の社会的な責任である。一次史料の発掘と新しい歴史解釈の目的は、先行研究に対するわずかな優位性を主張するのではなく、社会の求めに応じて、あるいは社会に向かって、歴史理解の指針を示すことでなくてはならない。≫)

令020716 ブルーブラッド    (徳間書店、令和元年刊)   藤田宜永 著
(旧華族の御曹司の数奇な活劇譚。映画のキャスティングをしたくなる。ナチスの隠し財産と義賊・金色夜叉が交差する。登場人物間の遭遇があまりに都合よすぎ、というAmazon評はもっとも。)

令020709 小山登美夫の何もしないプロデュース術    (東洋経済新報社、平成21年刊)   小山登美夫 著
(リーマンショック後の語り。小山さんの善き品性が存分に伝わる。新人を見るポイントとして挙げている4点が、「制作継続のモティベーション」「既存の枠組みを超えようとする意志」「時代および自己への真摯な向き合い方」「専門や自分自身といった限定された枠組みを超えてソトとの結びつきが可能か」。強さ、ねばり、自覚、本気度、アートに対する純粋さ。|奈良美智さん曰く「自分の描きたいものを描くのがアート。誰かの依頼を受けて描くのがイラストでしょ」。|1人1,000万円のよさんを5人の学藝員に預けて、自分の目で世界のアートを見て購入を決めることはできないものでしょうか ―― という小山さんの指摘に共感。学藝員さんたちがそれに応じる力量があることを祈るが、そういうシステムが出来上がれば、学藝員は憧れの職業になるなぁ。)

令020708 その絵、いくら? 現代アートの相場がわかる     (講談社セオリーブックス、平成20年刊)   小山登美夫 著
(リーマンショック直前の、いい時代の現代アート指南。ぼくもアートに深入りしはじめたときに、こういう本をまず手にとるべきだった。|作品を見て、その価値を判断する3つのポイントは「技術」「感情」「主題」。|小山さんの高校時代の落研の藝名が三縁亭風扇(さんえんてい・ふうせん)。)

令020708 機密費外交 なぜ日中戦争は避けられなかったのか    (講談社現代新書、平成30年刊)   井上寿一 著
(満洲事変から上海事変、盧溝橋事件に至る時代の人間模様のヒダ。さすが井上寿一さん! 機密費文書は あくまでBGMであるが、本書を手に取らせてくれた切り口に感謝。|国際連盟脱退が、日本への経済制裁を円満回避するための合理的選択であったことを知らされた。|満洲で日本勢力の核としてのさばった二流・三流の日本人…。本書で納得。|満洲事変後も中国国民党に存在した親日派をむざむざ崩壊させ、いったんは日本との協調志向もあった蒋介石を硬化させたのが、日中戦争の原因だ。関東軍が先走って、華北分離工作をやったのが、とにかく、いかん。このレベルの腑分けを読みたかったのだが、これまでぼくが目にしてきたのは単なる悪玉論か聖戦論だった。本書ではじめて日中戦争への道がわかった気がする。|今日の中国が戦前日本と化しているという著者指摘に同感。因果なり。)

令020628 終戦後史 1945-1955    (講談社選書メチエ、平成27年刊)   井上寿一 著
(またまた、人々が生きて動いている寿一流の史談。日華平和条約の締結が私有財産の請求権を認めていて好機到来と受け取られていたものの、蒋介石政権が請求に応じなかった、というあたり、歴史が別の道を行っていれば「私有財産請求権」の存在が都大路を闊歩できていたろうにと残念(138~139頁)。GATT や国連に加わるにも大変な苦労をした時代があったことにも、目を見開いた。)

令020624 陰翳礼讃・文章読本    (新潮文庫、平成28年刊)   谷崎潤一郎 著、筒井康隆 解説
(学生時分よりの2大懸案書、ようやく読み上げた。存外平易な内容。陰翳礼讃は、早々に厠話を延々と語り、流れを卑近なところにもってきたところで一気に人間の属性論に入る構成の妙。厠話が無ければ、高雅にすぎて読みにくくなってしまう。文章読本は書かれた昭和9年なりの日本語表記の課題があれこれ取り上げられている。戦後それらが紆余曲折の末にほぼ解決に向かったわけである。)

令020621 読まずにいられぬ名短篇    (ちくま文庫、平成26年刊)   北村 薫・宮部みゆき 編
(全篇、文句なしの珠玉ぞろい。高い評判だけ聞いていた松本清張の「張込み」と、それを時代劇に仕立てた倉本聰の「武州糸くり唄」。中村敦のパラオ篇たる「南島譚」の2篇。人間の意外な脆弱さをあぶりだした Henry Slesar の The Day of the Execution など。山本周五郎の「その木戸を通って」の味わい深さと品のよさ。|あと、未読の名短篇シリーズは、「教えたくなる」「とっておき」「ほりだしもの」とある。)

令020618 読む中国語文法    (現代書館、平成27年刊)   相原 茂 著
(語順の妙を中心に、文法の深みに光をあてている。形容詞にアナログなペアとデジタルなペアがある、というのも発見。“高、低” や “大、小” は、程度が連続して切れ目がない概念、いわばアナログ。アナログだから、“不低” は容易に “高” の意味になる。一方、“新、旧” や “硬、軟” は、言語的に中間点を想定しづらいデジタル概念。だから “不新” は “旧” にあらず、というわけ。)

令020614 論点別 昭和史 戦争への道    (講談社現代新書、令和元年刊)   井上寿一(としかず)
(名著! 戦前史を読んで、生身の人間が動き回り語り歩いているのを実感できた初めての本。同時代のディテール表現をだいじにし、さまざまな研究に言及する目配りも幅広い。社会学部から法学に向かい政治外交史を専門としたからこそ、歴史学界のゆがんだ師弟関係から自由に論陣を張れるのではないか。井上寿一さんの著を網羅的に読んでみたい。)

令020611 初級韓日学習辞典    (国際語学者、平成14年刊)   崔正洵 編著(ほかに共編者5名)
(後半3分の2の 2500語の例文つき小辞典を読破しようとして、ずいぶん時間がかかった。変格活用の動詞の変化形をいちいち挙げてくれているのが親切で大いに助かった。ようやく朝鮮語が身についたような気がしている。)

令020607 藝術闘争論    (幻冬舎、平成22年刊)   村上 隆 著
(アートへのアプローチの多様化。テーマの多様化ももとよりだが、村上さんが実践しているいわば「未来へのエージェント」としての師匠業の広がりがすごい。アドバイスの深掘りから作品展示・販売までさまざまな接地面を駆使する。|「現代アート」というのは、つまるところ現代アングロサクソンが刻々と紡ぐトレンドそのものであり、そのトレンドをフォローしてそのロジックに乗りつつワープしてはじめて現代アートの勝者たりうる。|現代アートのコンテクストは、1.自画像 2.エロス 3.死 4.フォーマリズム=歴史性 5.時事。|A級とB級の勝負の分かれ目は 1.文脈の説明 2.理解者の創造 3.ネットワーク。)

令020602 密やかな結晶    (講談社、平成6年刊)   小川洋子 著
(すぐれた文学の予見性をあらわした作品。いま読むと、武漢肺炎禍でさまざまのものごとを放棄せよというおふれにみごとに唯々諾々と従ったわれわれの姿が二重写しになる。習近平中国の統制社会が、図らずも多数派に支持されるこの現実もまた、小川洋子さんの紡ぐおずおずとした世界に厳然とひろがっている。作中の主人公の現実と、その主人公が紡ぐ小説のなかの女性という二重構造。限りなき非現実を現実として見せる筆力がすごい。|鄭義信・脚本、石原さとみ主演で平成30年に上演された芝居を2度観ている。消えゆく蠟燭のような原作の結末が、復活の赤い薔薇の雨に置き換えられた舞台空間を思い出す。)

令020424 両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く   (東洋経済新報社、平成31年刊)   Charles A. O'Reilly III・Michael L. Tushman 著、入山章栄(いりやま・あきえ)監訳解説、冨山和彦 解説、渡部典子 訳
(両利き経営は、総合商社でもまれたプラント輸出と事業投資の「車の両輪」の世界そのもの。事業投資をスピンアウトせずに、既存主流のプラント輸出でもって原資・人材の両面で支えながらも別部隊として推進していたのは、おおむね正解。無理解な指導層をいかにクリアしていくかが課題だったが、まさにそれはボトムアップであり、本書が語るトップダウンのプロセスと異なる。「両利き」に、組織の妙や新たな統合アイデンティティの涵養が欠かせないこと、再認識させられた。|繰り返しが多く、抽象言辞の羅列が多すぎるのが難。5分の1くらいに圧縮すれば、もっと読みやすい良書になるのだが。)



<積ん読(つんどく)ほか、買って読了>

令020924 指揮官の決断 満洲とアッツの将軍 樋口季一郎    (文春新書、平成22年刊)   早坂 隆 著
(もっとドラマチックな評伝を期待していたのだが、じつに淡々とした筆致。玉砕のアッツではなく、日本軍が曲りなりにも勝利した占守島の指揮官像を期待したが…。占守島は中央の参謀本部が設定した停戦時刻を現地が律義に守ったことを季一郎は残念に思っている。)

令020806 中国語の歴史 ことばの変遷・探求の歩み    (大修館書店、平成23年刊)   大島正二 著
(大修館ともあろうものが、なんというガッカリ本。この著者はそもそも現代中国語がろくにできず、He likes me. を ”他好我” と訳し、魯迅の文章を他人の和訳を頼りに読む体たらく。「~だそうです」「~であるようです」がやたらと出てきて、学問の基本ができてない。そもそも中国語の歴史ですらなく、字書を中心とする諸著作の解題を羅列したもの。廃棄!)

令020711 How to Learn Any Language in A Few Months While Enjoying Yourself 45 Proven Tips for Language Learners    (自費出版)   Nate Nicholson 著
(ネットを駆使して Day 1 からネイティブと会話せよと説くが、1日2時間の学習を毎日続けろ 時間は作れる、としっかり書いてある。ポーランド語で次の踏み出しに若干躊躇しているぼくには、ちょっと痛い指摘でもある。)

令020709 藝術ウソつかない 横尾忠則対談集    (ちくま文庫、平成23年刊、原著 平成13年刊)
(20年前の対談もろもろ。河合隼雄さんとの対談がいちばん面白い。河合さんが頭がいいんだね。横尾さん自身の語りで「個人」でなく「個」を追求するのがだいじだと しきりに言う。妙な社会意識がまとわりついた個人ではなく、一個の存在としての個に帰れということかな。解脱境? 瀬戸内寂聴との対談だけは、1字見るのも汚らわしくてすっ飛ばした。)

令020708 21 Lessons for the 21st Century    (Jonathan Cape, Penguin Random House 平成30年刊)   Yuval Noah Harari 著
(各章の考察は例示に富み説得力あり。「自由意志」への懐疑すら然り。宗教、わけても一神教がいかに人類を誤り導いてきたことか。著者の唱道する、あるべき secularism に共鳴する。)

令020530 藝術起業論    (幻冬舎文庫、平成30年刊、原著 平成18年刊)   村上 隆 著
(いまごろ読んでるのかと自分を嘲笑してやりたい。村上隆氏は大嫌いなアーティストだったが、そして彼のアプローチは読後のいまでもけっして好きにはなれないと思うが、彼が経てきた年月日々の奥深さに感じ入ったし、日本の現代アートが欧米で通用するよう彼が紡いだロジックの文脈を学ばなければ。)

令020521 現代美術コレクター     (講談社現代新書、平成28年刊)   高橋龍太郎 著
(高橋コレクションはてっきり順風満帆の金持ち医師の余技と思っていたが、なるほどそんなことがあろうはずはなく、もともと疾風怒濤の青春を泳いだ創造者であられたのだ。まことに、日本の現代アートの歴史をアーティストたちとともに紡いだかただ。日本の文化政策の貧しさと、かかわる人々のちまちまとした村社会志向、ご指摘のとおりで最近のぼくの日本に対する絶望「観」にまた一層くわわった。)

令020518 A Series of Unfortunate Events The Bad Beginning    (Egmont UK Limited 平成11年刊)   Lemony Snicket 著、Brett Helquist 画
(全13巻のうちの第1巻。英米独特の都市のダークさ。なるほどとことん不運つづきなのに、絶妙にかすかな光を差し込ませる力量。読者の心理を存分に計算しつくしている。残りの12巻、読みたくないでもないが、読むならそろそろようやく Harry Potter だろう。)

令020514 Fly Already    (Granta Publications, London 令和元年刊)   Etgar Keret 著、Sondra Silverston et al. 訳
(Etgar Keret のストーリーを読んでいると、次元のちがう人生を歩ける気がしてくる。)

令020505 英語ネイティブ脳みそのつくりかた 英語教育界の異端児が「ふつうの日本人」のために開発した MIT 発 英語実践プログラム ネイティブ・マインド    (大和書房、令和元年刊)   白川寧々(ねね)
(ページというページが燃え盛っている。パワフル。英語を、自分の運命を変えるツールとして磨ききった実績で、次の世代のたましいにマインドセットの転換を呼びかける。|わたしも含め世間では LRWS の 4要素を挙げるが、白川さんはこれに Vocabulary を加える。日本の英語学習者の致命的な弱みとして語彙力の欠如を挙げる。1万語知らなきゃ話にならないと。自作例文と絵を添えた「ネイティブ・マインド流フラッシュカード」。例文がチョー大事で、例文の内容をわざと不謹慎にするとめちゃくちゃよく覚える、ってのがいい。)

令020504 英文法の鬼100則 英文が表す「気持ち」を捉える    (明日香出版社、令和元年刊)   時吉秀弥(ときよし・ひでや)
(英文法を暗記科目にしがちな日本の英語教育へのアンチテーゼとして、個々の言語現象にはそれぞれきちんとした理由があると説く。学びとは何か、何のために学ぶのかという問いがつねに原点にある。切り口よし。|現在形は「いつもそうだ」形、過去形は「今は違うんだよ」形(64頁)・ 進行形は「未完了形」(81頁)・ 「動作動詞」の定義:「動作の<始め、途中、終わり>という3つの相を持ち、動作を行うことによって「変化」が起きる動詞(96頁)・ 進行形は「一時的な状態」(104~107頁)・ 「驚く」「退屈する」は、自分から自主的に持つことができず、外的な原因がないと成立しない感情。ゆえにヨーロッパ語の感覚から言えば、原因があなたを「~させる」となる(152~155頁)【ただし I was panicking. を誤りと言ったは勇み足(155頁)。panic は自・他ともにあり】・ 「仮定法現在」の説明よし(212~215頁)・ × John is tough to be pleased. 〇 John is tough to please. を tough構文と名付けて説明(186~189頁)・助動詞の「力の用法」「判断の用法」(227~229頁)・ there is/are のあとに the+名詞もありうる: "We are done for today, aren't we?" "No, there is still the issue of pricing." なぜなら the issue of pricing はここでは新情報だから(311頁)・ at は「移動するさいちゅうの点を指す」(340~343頁)|| 英語を習う目標を、漠然たる「日常会話」ではなく、「プレゼンテーション+ライティング/交渉力」と措定する → まさに銀座ビジネス英語gymでやってること!! ・ 日本語の会話は「同調」を基本とするが、英語の会話は why? を基本とするから、それに対応するべく理由の列挙と深掘りで説得につなげる(408~411頁)。)

令020503 Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World ― And Why Things Are Better Than You Think     (Sceptre, Hodder & Stoughton, London 平成30年刊)   Hans Rosling・Ola Rosling・Anna Rosling Roennlund 著
(いまごろようやく読み終えたとは、いささか恥ずかしい。武漢肺炎禍への小役人らの対応に the Blame Instinct が刺激されていた矢先で、適切なる自戒を得た。やはり社会システムそのものに目を向けていく必要がある。この本が生まれるに至る死期ちかき Hans Rosling 氏と息子・娘の壮絶な日々を語るページにも うたれた。)

令020408 Suddenly, a Knock on the Door     (Chatto & Windus, London 平成24年刊)   Etgar Keret 著、 Miriam Shlesinger ほか訳
(星新一の『ノックの音がした』みたいなタイトルだ。短篇集。人間を造った God が、じつはとても不幸で、そういう自分にかたどって人間を造ったのだと、不幸を嘆くひとに告白する Pick a Colour. キャラの描き分けがもっとも鮮明なのは Surprise Party. )




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